後宮小説
 

1989年の、第1回 日本ファンタジーノベル大賞 受賞作品の本作。
…ということは全く知らぬまま読んでしまいました。あとがきでそれ知って「えっ、そーだったんか!」とか驚いてる始末。
コーエーから以前出版されていた歴史系雑誌の投稿か何かで知ったんですよ(菱、このパターンかなり多い。『長安異神伝』もソレだし)。
で、「後宮」ってことは、中国のいずれかの王朝の後宮が舞台なんだろうな〜、でも「後宮」って付くくらいだから、やっぱちょっと色っぽい路線のお話なのかね〜? と、タイトルから勝手に想像してたんです。が。
その後「アニメ化されたことがある」と知って、それではお色気路線はなかろう、けど、じゃあどんな物語なんだ? と予想もつかなくなり、ますますどんな物語なのか気にはなってたものの…タイトルしか覚えてなかった(作者名・出版社ともに不明状態…)ため、かれこれ3、4年はかかったかと。
そうなんです、アニメ化されてて、しかも地上波で放映されたことがあるらしいんです!!
その時のタイトルは『雲のように風のように』。元タイトルからは想像も出来ない…。
このアニメ作品が最近DVDで発売されたと聞きまして。その記念の意味も込めての紹介・感想をお送りします。


1600年代前半、素乾国の後宮が舞台。
何事にも物怖じしない、でも後宮というシステムをまるっきり理解してない(というか勘違い気味)13歳の純朴少女・銀河が主人公。
ホンモノの宮女になるために、個性豊かなルームメイト達と共に後宮の前段階である仮宮で生活し、女大学(注・「後宮の」学校ですから…何を学ぶかはお分かりですよね?)で学び…というのが前半。
後半は、叛乱軍の蜂起・宮廷内のドロドロした権力争い。王妃となった(!!)銀河は叛乱軍から後宮を守る為に宮女たちと「後宮軍」を編制、奮闘し、そして…

これだけ読んだら、ひょっとしたら歴史小説だと思う人もいるんじゃないでしょーか?
でも『後宮小説』は、ファンタジーなのです。作者の心の中に存在する空想の世界が、言葉に置き換えられた架空の物語。
架空の歴史・架空の国・架空の人物達……

「ファンタジー」と聞くと大概の人は、西洋風の、剣や魔法なんかが出てくる系統の物語を想像するような気がします。菱もそうだし。
西洋(っぽいのも含めて)風の作品って、何故か言われなくても「ああ、これは架空の世界なんだな」と気付きやすい。でも和風中華風なファンタジーって、もともと数が少ないのもあるけどそれ以上に、はっきり言われないと何か元になっている「歴史」が存在するのだと考えちゃったりしません?
まして、リアリティのある西暦年号・いかにも実在してそうな地名人名資料名・後世の研究者達の発言etc.を続々と出されたりしたら!
「こんな国名、聞いたことないけど…でもこんなにはっきり書いてあるんだし、きっと菱が知らないだけなんだろーなー」とか思っちゃって当然だよね!?
この作品に出てくる「本物っぽい」データ・逸話の数々、いまだに作者の創作だとは思えないくらい。

後宮を舞台にしているだけあって、普通の小説と比べたら官能的な表現が多いことは多い。女大学の講義内容とかね。どうしてもね。
でも作品全体がそういう感じの生々しさに覆われていないのは、女大学学司・角先生の後宮哲学ゆえか、それとも銀河の澄んだ性格ゆえなのか。
生々しさどころか、笑いの種がそこここに落ちてて「フッ」と吹き出しそうになったり、でもきっちりしめるとこはしめてて、銀河たち登場人物の抱く思いに素直にじんときたり。
『雲のように風のように』というアニメ版タイトルは、もしかしたら銀河のそんな所を表現したものなのかも知れません…私見ですけど。

登場人物の名付け方、というか読み方に少し西洋まじりが。
銀河は「素のままのぎんが」
(BY双槐樹)ですが、銀河が後宮で最初に出会った人物双槐樹は(コリューン)。銀河の同室の一人は江葉(こうよう)とそのまま読みだけど、他、貴族出身の二人は世沙明(セシャーミン)・玉遥樹(タミューン)。
あと…叛乱軍の首領、幻影達(イリューダ)。と、漢字で書いてそう読ませてます。
最初は慣れなくてどうしても漢字読みしてしまうんだけど、そのうち漢字を見てカタカナ読みがサッと浮かんでくるようになります。漢字表記の美しさとカタカナの硬質な音の響きの美しさが同時に表現されてる感じ?
ここで触れてしまった以上、登場人物についても書きたい、ものすっごく書きたいんだけど、でもダメ。
これは書いてしまうと、これから読む人の楽しみを奪ってしまうから。
菱は、完全に騙されました。銀河も、完全に騙されてました。
一旦読んだ後で読み返してみると、随所にヒントが散りばめられているのが分かります。…とだけ言っておきましょ。

アニメの情報も少々。とはいえ、リアルタイムで観たわけじゃないんですが。
情報源は、封神2のために買ってきた「週刊プレイステーション2」の記事。この記事見つけたときはひっくり返るかと思いました。ゲーム雑誌なんか2、3年に1回くらいしか買わないのに、丁度その時に自分の知ってるものが紹介されるたぁー思いませんよ。

革命をたくましく生き抜く冒険ファンタジーアニメ
第1回ファンタジーノベル大賞受賞作をアニメ化し、'90年に日本テレビ系でスペシャル番組として放映された奇想天外な物語。キャラクターデザインを「となりのトトロ」「魔女の宅急便」などでおなじみの近藤勝也が手がけた名作がDVDでよみがえる!(以下略←思いっきりネタバレしてるので。)』

90年だって。12年前だよ。菱まだ小学生じゃないか?
作者の酒見さんは製作に関っていないのに加え、内容が子供向けアニメには辛い(作者談)のもあって、かなりストーリーや人物設定がいじられてるっぽいですが、見てみたいなぁ、一度。
普通ないからね、好きな小説作品がアニメ化されるってのは。
2002年6月21日発売のDVD、メーカーはバップ、¥3800とのコト。

 UPDATE→2002/7/21

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